1994 TREK 9900 OCLV
実測車重 | 9.8kg〜8.91kg |
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当時価格 |
Overview
これぞエンジニアリングアート!芸術と呼べる工業作品
世界最軽量とアピールされたTREKカーボンフレーム、94年モデルではカタログのトップ2機種にラインナップされ、XTグレードとフロントサスペンションで構成された9900が最上位、それに対し9800ではLX混在でクロモリリジッドフォークとなる。
しかし今回入庫したこの9900はXTグレードでリジッドフォークの組合せ。さてさて経緯は不明だがたいへん好都合&理想的な車両である。フルリジッドを求めた当活動コンセプトに完全合致、他には見当たらない希少性、さらに改造のないオリジナル度の高さ、程度の良さ、十分な理由を持って所有意義が高まる。しかも現在のTREKでいまだ保証対象とされ「すべてのOCLVカーボンバイクに生涯保証がつけられている」と明記がある。
その程度の良さは奇跡的!25年経過を疑うキズひとつない「中古車」であり、ブレーキのリム摩耗が極小なことからほぼ実用されなかったことが想像される。純正サドルの表皮も傷み無く「生きている」状態。自然劣化するゴムパーツ(タイヤ、グリップ)やワイヤー類は交換となるが当時のオリジナル容姿を保ったままの貴重な個体であり、これを独善的にカスタムすれば信義が問われるだろう。サイズもぴったりでステムを変える必要もない。RiGiD GARAGE設立の趣旨通りに「未来への維持継続」を遂行します。
Impression
数値以上の軽量感と取り回しの良さ、手軽に気負いなく日常使いが出来る軽快車。しかも何の抵抗感もなくスイスイと進む動力性能は当然ながらレーシングレベル。モーターサイクルや4輪車では在り得ない両極のユーティリティをみごとに合わせた欲張りな性能を持つ。設計の意図がひしひしと伝わり「カーボンの軽さを活かすために何をすべきか」を追い込んだ当時の技術革新はまったく正当で正確な方向だったことが体感で解かる。「とっつき」の良さはピカイチでほんの数メートル乗り出しただけでも全体像が把握できて不安が無い。この年代直後に合流したKLEINと同様に信頼感の大きさを持ち、クセや特異質がなくライダーがマシンに対し特別な配慮、補正が不要、なんと「人に優しい」性格だろう。試乗すれば必ず欲しくなるようなレベルの強烈な優位性だ。カーボンの革新性、話題性だけではない、それを活かした大切な本質が強く濃く注入された工業作品「エンジニアリングアート」なマシン。当時の設計チームのストーリーが知りたい。
フレーム単体の感触としてはクリアーで脚色の無さが特徴。何かを強く主張してくるような演出がなくタイヤやブレーキなど装備品のフィーリングを濁りなく明確に伝えてくる。よってコンポーネントの質に応じた完成形となり、そのチューニング、セットアップも評価に大きく関与する。メカの腕が試されるやりがいのあるプラットフォームである。
全体としてはトップメーカーらしいスタンダードな方向性であり、これぞMTBの基本!と呼べる整った乗り味。際立った個性が少なくやや淡泊な印象もあり「面白みに欠ける」と下方評価されがちかもしれない。しかし、各パーツの感触や調整具合を体感するにはたいへん好都合であり、そこに楽しさを見いだせば影武者的フレームが大きな意味を持つ。事実、XTの操作感がこれほど好印象になるマシンは他に経験なく、完成車としての総合的なバランスで解りやすい高性能、どこでもだれでもそれを感じられる楽しさがある。高度な理解力を要求されない万人向けの味わいであり、さすがTREK、なるほどTREKと腑に落ちる全体性能を持つ。
あえて個性とするならばやはりその軽さだろう。ハイスピードになるほど抵抗感が無くなり、体力的な疲労が出てもパフォーマンスの低下が少ない。軽さの恩恵はスピードレンジ全域で得られ、感情的なつらさ、きつさをマスキングして楽しさ嬉しさに変換できるSS(スーパースポーツ)マシン。
その車重は実測9.87kgだが物理的な目方以上の軽さを感じる。カタログスペックではなく感覚量の大切さ、開発者はその重要性を分かって意図的にパッケージしたのであろう。これは当ガレージとの意識合致がかなり高い。理屈や諸元を超え感覚的に好きになれるマシンに出会えたその「現象」はたいへん注視すべき流れ。受けとめる心構えも念押し自問に至る。趣味性の濃さや深みが予想される今後が楽しみな1台。
Appendix
乗るほどに長所、利点が出現する。パワーアウトプット、漕ぎの軽さは驚異的。グイグイと力が入り自動的にエンデュランススポーツへと導かれる。いつの間にか高いスピード域に達しており、さらにそれを維持しようと体が勝手に動く。上のレベルへ進むための心構えやモチベーションを事前に用意する必要が無く手順が省略される。必要となる肉体的パフォーマンスをオートマティックで吸い出してくれる頼もしいトレーナー。ライダーの心情は受け身でよくマシンが勝手にやってくれる。
・ギャップスルー
エアボリュームのあるタイヤとフレームのしなやかさが組み合わされ、段差や悪路へ躊躇なく飛び込んでいける安心感がある。特段かまえる必要もなく信頼を持って体を預けられる。跳ねても姿勢の乱れが極小でコーナリング時でも安定性を維持したまま何事もなくスルーしていくリスク回避能力がある。
・ナチュラルハンドリング
こちらも頼れる特性。イメージ通りの動きで思い切って振り回せる。タイトなターンや障害物の回避などに優位であり、シングルトラックでの「木の根っこ斜め通過」がリスクにならず待ち遠しい。前記のしなやかさと相乗され、タテヨコの動きがたいへん優秀でありマシンに任せるまま自然体で高度なテクニックとライディングに至る。楽器と同様、良い器材で練習すればそのレベルまで上達する。ビギナーこそ高品位な道具を使うべきであり、TREKの導きには敬意をもって共感する。
Appendix 210428
ノーマル戻しができることを念頭に軽微なカスタムを試みた。ハンドル、ステム、サドル、シートポストの交換で主に身体との接点をチューニングアップ。万人向けマスプロダクト仕様から自分スペシャルへと更新。
ハンドルは画像の通り無印のカーボンバー、実態は超軽量Answer ProTaper、表面のグラフィックを磨き落としシリコンスプレーだけで仕上げ、クリアー無しでも特に支障はない。横幅620mmでのライズアップと短めステムを組み合わせて少しだけ手前に寄せる。サドルはペダリング効率の理想位置から僅かに低め。これで気軽に乗れるマイフェイバリットポジションを得た。
この乗車姿勢は筆者にとってとてもノーマルでスタンダードで普通、まったくもって平凡。際立った個性や特筆すべきも無い。ただし改良ポイントも皆無!ここが大事。「気になるところが何も無い」が高度に完成された証である。この仕様を自分軸とし、他のマシン評価への基準点、マスターバイクの位置付けと決める。今まではKLEIN Attitude 2001が経歴上その役割であったが経験や先入観、思い込みをフラットに補正するいい契機と捉えマインドセットの切り替え、己の思考様式のアップデートに至った。
クリアーでナチュラル、基本のしっかりしたTREK 9900。軽さ・ハンドリング・パワー効率がハイレベルにあるので他のマシン評価が相対的に低くならないだろうかと、要らぬ懸念を夢想している。
冒頭でカスタムを否定しながらそれに成った。「戻す想定のカスタム」である。なにもしないで乗らない飾り物になるほうが余程不適切であろう。自分に合わせることで乗る機会を増やし各パーツをしっかりと機能させる。そしてクリーニングを行い次の走行に備える。動態での維持継続が最も大切、放置ではなく大切に「使うこと」が未来への敬意だと思う。それとパーツの配色も同様に「本来の姿ではないこと」を意識してクローム系ではなく反対色の黒で構成。純正ノーマルへのリスペクトを示す、主張の弱い謙虚なイメージとした。
Appendix 210713
・ブレーキ調整
湿度の高い日によく鳴くカンチブレーキはやむなくトーインでの対策となったが、これが功を奏して良好な結果に至った。音は消えてタッチは犠牲にならず制動性も十分。そして以前から気にしていたリムの継ぎ目の引っ掛かりをスムーズに越えるようになった。いいことづくめで完成。下り坂でフロントを引きずりながらアタリを入れて完了。開き具合は少し大きめの1.2~1.3mm程度。よくシナる柔らかな車体ほど音は出やすく開きも大きくなるのではと推測。筆者の本業である音の知見から考察すると、シューがリムに引っ張られ、捩じられるように角度が付き、後部が浮き上がる。フレーム側のシナりはバネのように揺り返しを発生させ、早い(高い)ピッチで浮き上がった部分へ共振しバイブレーションの発生(=高周波の音)となる。オートバイのウォブリングも同様、「共振」「共鳴」し合う原理は音叉やパイプオルガンも同じ仕組み。習得した知識や経験が重なり合い、ボーダーレスで次のステージへと進む。
Appendix 230711
◆9900-SLW (Super Light Weight) Project.◆
・Overview
記録には無いがこの車両は一旦ノーマルに戻している。これだけ程度の良い未改造車はなかなか無いだろうし、それを文化として維持継続するミッションが当ガレージにはある。ノーマルが大事、純正が整っている、客観性が高く道理的な理由が多数だろう。それに反して今回は主観的な先端特化へと左折した。超軽量化への試み。
RiGiD GARAGE保有車両の車重を全体考察すると、90年台前期でのクロモリ車は平均して11キロ程度、中期から後期へのRitcheyプロジェクトでは9キロ台まで進化するが、初期から軽量化への先陣を切っていたのはやはりアルミを用いたブランド、KLEINやCannondaleであった。一方TREKは独自の着想でカーボンを採用しクロモリ×アルミ合戦とは異なる歩みで世界最軽量をアピール、その「セールストーク」を偽りなく実証してみたいという理由で実験のテーマを定めた次第。最後にはノーマル戻しをゴールとすることで客観性も両立いたします。
さらにセカンドテーマは「90’s合わせ」×「手持ちパーツ」の有効活用、新規調達無しのシバリを入れてガレージ内をシンプル&スマートに整えることも掲げる。空間の余白、空気感が大事、モノが溢れかえっていると大切なコトまで埋もれてしまい価値が見えない。単なるスキマ「無」にもアートがあり余韻を響かせたい。
パーツ (実測値) | before | after |
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ハンドルバー (-15g) | System4(160g) | CONTROL TECH(145g) |
ステム (-40g) | System4(190g) | CONTROL TECH(150g) |
シートポスト (-5g) | System3(250g) | THOMSON(245g) |
ホイール (-150g) | XT737 + TREK SingleTrack(1850g) | Rolf DOLOMITE(1700g) |
タイヤ (-640g) | MICHELIN Country Dry 2(600g) | MAXXIS MAXXLITE 285(280g) |
スキュワー (-100g) | XT737(175g) | Tranz-X(75g) |
・Impression
8キロ台の超軽量車、さぞかし大きな恩恵が得られるかと思いきや「あれ?」っと、、、あまり感じることが出来ない。元々の性格がそのままで大きな変化無し。持ち上げればそれはそれはすごく軽量、しかし走行性能への期待にはハイテンションに至らず「超」は付かなかった。漕ぎ出しや登坂は明らかに軽くはなった、そして気づけばハイスピードに達しているので従来通りに高度なパフォーマンスではある。そうだ、これがTREKの一貫した整合性だったのだ。前出影武者フレームは気づかぬうちに良い方向へと性能を引き上げ、高ぶることなく平穏に目的を完結する。勝手に気分を高揚させて期待外れに落とし込んだのは他でもない私だ。TREKの理念をもっともっと理解しよう。
タイヤのフィーリングは期待以上、それを伝えるフレームが良い仕事をしている。4キロ高圧での試乗、オフロードでは石をパンパン跳ね飛ばしダート向きのタイヤでは無いことを正しく教示してくる。オンロードはとても良好、マシン全体のダンピング感が気持ちよく硬さではなくショック吸収の「速さ」をポジティブに受け止める。ガツンと響くような衝撃が皆無、ナチュラルでクリーン、しなやかにコトをこなす。特化性能を感情的にアピールするような演出・脚色ではなく、淡々と役務を遂行しシンプルにゴールへ向かう良い道具と言うことだ。ライダー「人」を尊重しその感情に土足では踏み込まない高度なTREK哲学ではと提議したい。
Appendix 230925
The last !!
軽量なSystem4パーツを車両に戻して極力純正ノーマルに近づけた。これで8.96kg、ギリギリ8キロ台をキープした最終仕様はTREKの伝統にも敬意を含ませた文化継承バージョンで完結させた。
ステムは純正System3と同一品のTIOGA製、天地を反転させて前傾ポジションをセッティング、裏返しでもデザイン秀逸!とても似合っている。2本締めクランプはさらに反転させることが可能でロゴを正立に向き変えする。突き出し90mmはやや近いところで低め、他車に比べると風変わりなポジションではあるがこれもいい。前のめりなスポーツ性とコンパクトな安心感が共存して個性的、日々乗り換えながらそれぞれに違いを楽しもう。
ノーマルステム120mmの反転取付も試走済み、ちょうどOld KLEINのようなポジションとなってハイスピード特化マシンへと変身できる。元々の基本性能がしっかりしてるので本質はそのままにマイナス要因なく良い面だけ特徴を引き出せる。
今でこそカーボン素材は多くに用いられるが30年も過去にここまで完成された設計技術が存在していたのだ!当ガレージとして特筆すべき最重要事項。1994年のTREK開発チームに敬意を持って最小限のカスタムとした9900 OCLVをここに定置する。
Specifications
Frame | TREK 9900 OCLV / 1994 / 68194-01 |
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Headset | TIOGA ALCHEMY |
Bar |
TREK System4 |
Stem |
TREK System4 |
BB | |
Crank | SHIMANO XT 737 |
Rings | SHIMANO 42-32-22 |
Rear Derailleur | SHIMANO XT 737 |
Front Derailleur | SHIMANO XT 737 |
Shift levers | SHIMANO XT 737 |
Brake Set | SHIMANO XT 737 |
Brake levers | SHIMANO XT 737 |
Front Hub |
SHIMANO XT 738 |
Rear Hub |
SHIMANO XT 737 |
Rims |
TREK MATRIX SINGLE TRACK PRO |
Tires |
MICHELIN Country Dry2 |
Seat Post |
TREK System3 |
Saddle |
TREK System4 |
Pedals | SHIMANO |