1994 Bianchi PEREGRINE
実測車重 | 10.8kg |
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当時価格 | \168,000 (Cycle Sports ALL CATALOG 1994より) |
Overview
塗装の劣化がまったく無い奇跡の極上モノ。サビ無し、色あせ無し、剥げスレも無し。細部まで実に素晴らしい状態を保っており滑らかな無垢肌に目がくぎ付けだ。再塗装を疑うほどだがリムの摩耗が無いので低走行の初期状態であることには間違いない。
装着パーツも全て当時のままだろう(画像はパーツ交換後の完成仕様を撮影)。カタログ上では「XT & LXのミックスコンポ」と書かれておりその通りになっている。ハブが前LX後ろXTであったりしてちょっと不思議なアンバランス、改良余地に期待が膨らみチューニングアップの方向性もブレなく明確、楽しい妄想やガレージワークまでもが初期付帯された90’sの「モノ+コト」パッケージ、趣味性の高さがハイレベル。
分解整備前にプレインプレッションを試みた。最低限の完成状態にはなっておりサドルとペダルを仮付してブレーキ調整だけで出発。
ノーマルではどっしりと落ち着いた走りを見せる。重さは感じず漕ぎは軽いがある程度のマス感、質量感が全体的な味わい。シビアさが無くおおらかな心情に導かれるので速度域問わずいつでも気持ちがいい。装着部品からも初期のリッチーPシリーズ的な構成が見られポジティブなゆったり感が共通する。
この時代のビアンキはスペシャライズドと同様に新野村工業が手掛けていたと聞いた。NITTOやDIA COMPE、当時ものシルバーパーツがよく似合い乗り味や方向性もその時代を代表するスタンダードなものであろう。イタリアンブランドながら製造側の最先端は日本にあったよき時代の文化遺産だ。
本国の生粋ヴィンテージではなくMade in JAPANのネオクラシックMTBである。日本に居る私たち当事者がその文化歴史を大事にすべきだろう。当ガレージにとっては年式的にも得意分野、パーツ保有や整備の勘所も習得済みで楽しめる要因はとても大きい。気負いせず気軽に乗って日常使いもする。「壁掛けオブジェ」にはならないことがとても好ましい。
Technical Experience
整備を開始、各パーツを取り外して丁寧にOHを進める。シフターの洗浄クリーニングは精密な部品が多く難易度高!分解には勇気が必要だ。構造を記憶しながら慎重に進めて所要時間は片側90分、組立は在るべき場所にしか収まらないのでミスは出ない。樹脂パーツや潤滑不要の部品にはシリコンスプレーでスベスベに、メカの部分はシャバシャバのオイルスプレーを用いてシャキシャキに、固いグリスは使わないで操作性重視。機能も見た目も新品のように蘇るさすがのシマノ製品である。合計3時間の没頭タイムは幸せタイム、仕上がりの達成感も高くコーヒーとチョコレートが旨い。自律神経が整う濃密な時間を私は所有している。価値あるMTBをただ持っているだけが望みではない。
気軽にポン付けしたXTRシートポスト、XTRシートクランプ、BB-UN90、Ritchey W.C.S.ハンドルバー、当時もの(レールの低い)フライト白、希少で高価なパーツ達だが従来からの手持ち部品なので平易に楽しむ。このパーツ交換でカタログ重量から500gの軽量化、タイヤ&チューブはあえてそのままで、当時ものがどんな走行を見せるか実験体験の工程を織り込む。
Appendix
不可解であったミックスコンポの理由を過去のカタログ本から解明することが出来た。この年式よりも以前のモデルではDXコンポが採用された中間グレードであったのだ。LXとXTの間に位置したDXは93年で終了、しかし94年PEREGRINEはその中間モデルを継続させたかったのだろう。XTへのグレードアップとLXへダウンを均等に盛り込み差し引きゼロ、価格帯やカタログラインナップの都合でバランスされたのだと思う。経験上、OH前提での長期耐久性としてはXTが優位、LXでも酷使が無ければ性能面は問題なし、だから新品や使用の少ないLXであれば否定の理由無く十分に楽しめる。フルXTへのチューニングアップを目指し一部にLXを残すが、純正装備の初期状態もヴィンテージの希少価値であり捨てがたい魅力がある。純正戻しが出来るように不使用パーツもクリーニングをして大切に保管します。
Impression
完全整備で軽快感は出てきたので「どっしり」と言う表現は撤回、ステアリングヘッドのトルク管理やブレーキフィーリングなどで体感差は大きく変わるだろう。シフトもコン!コン!と切れよく決まる。駆動系全体が同年式構成のために相性抜群、調整も短時間で済んだ。ハンドリングはアンダーステアが強く個性あり。直進付近はナチュラルでスムーズ、安心感が大きくダート初心者にも敷居の低いイージータイプ。セルフステアが遅いためターン後半の旋回性が高くクルクルとよく曲がりしかも安定している。クイックな操作で深いバンクへ持ち込むと舵角が足りない。タイヤ(当時物と同品)の特性だと思うが体が順応するまでは要注意、不用意なハンドル入力もバランス崩すので鈍感な狭幅のフラットバーが合っている。慣れの問題で解決すると思うが他車から乗り換えると顕著。
ブロックパターンの「ヨレ」があり、特にダート下りブレーキで前輪に荷重の乗る場面ではそれに惑わされてフロントの動きが掴めない。よく乗り込んで体得したい課題も多いが、このくらいの「個性」があってもいいだろう。楽しく解決に臨める。平地ではとても静かな走行フィーリングでクロモリらしいアタリのマイルドさが印象的、ここが最も素敵なアピールポイント。高いピッチの振動をよく吸収してフレームからの高周波なノイズが出ない。衝撃の柔らかさまで期待するとやや外しであり石ころや木の根っこ越えは苦手、タイヤの影響が大きいように感じたのでエアを抜いて下限35psi(2.5kg)で試乗したが、それでも硬い印象は残り少し跳ねぎみ。ガツンと響くような冷たさではなくクロモリの鈍い弾性感はある。タイヤ単体の実測重量が680g、チューブが185g、軽量化の余地もあり500gぐらいは削減できるので次のチューニングアップで乗り心地含め再度検証したい。
ユーズドVGCで入手したダイヤコンペCR-Xをこの車両に試したが調整幅が広く様々にトライする必要がありそうだ。トーイン無しでは鳴きとジャダーが盛大に発生、その対策セッティングは3次元方向に多種多様。フレーム側の台座に対してガタ(遊び)が大きくその分トーインを多めにセットする、しかも前後4か所全てが同じではない。さらにシューの縦方向の首振り角度はレバーを強く握りこんだ際に大きな変化がありどの位置で合わせるか試行錯誤の実験体験、リムもフラットではなく湾曲タイプなのでどこに当てるか選択肢が多い。今後のチューニングテーマが尽きない欲張りな趣味性をたくさん包有する。すぐにベストセッティングが出る車両ではなく乗り込んでの調整を繰り返し煮詰めてゆく。人を選ぶマシンと言っていいだろう、技術がなければ持て余す。
全体的なマス感、質量感が大きな特徴で縦横動きの反応速度に独自のものがある。重さではなく「動きのゆるさ」を感じるのでそれを味わいと表現するならばメリットに、鈍重と言えばデメリットになる。これ以降に進化した車両と比べれば明らかに後者、クロモリの質感を求めて何かを感じようとすれば前者ということ。肯定的に表せば落ち着き感、ぬくもり感、穏やか感と様々な単語がイメージされ、筆者にとっては古すぎず新しすぎずのちょうど良い「楽しめる」年式である。
学校教育で全ての日本人に染みついた「競い合い」はどんな場面でも深層意識に居座り不必要に感情を揺さぶる。仕事、お金、暮らし、全てにモノサシを当てて比較優位性を探す習性は(生きるための本能かもしれないが)私にはもういらない。どうにも消せないこのストレスから脱却する方法、PEREGRINEにただ乗るだけで別次元への扉が開き「その先」へ進むことができる。儀式である!真の自由を得るために、無意識の心の領域を改新することができる。
....... 話しを元に戻そう。
チューニングアップとしては道半ば、課題を残した未完の部分が多い。お楽しみを意図的に先送りして未来へ引っぱるのがいいだろう。完璧を求めてつい急いでしまうが、サスティナブルなハッピータイムを大事にしまっておくのも財産だ。ゆっくり歩んでじっくり味わう、時間の使い方を94 PEREGRINEから学ぶことにしよう。拙速な筆者には適度なバイアス補正が入る。
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タイヤはこのままでいい!乗り方を変えれば面白いようにバランスする。新しい発見があり有益な体験と刺激が得られたので追記する。「大空を旋回する猛禽類のイメージ」で乗るのだ。ゆったりと大きな弧を描く操縦が合う。決してチュンチュンスズメではない。「PEREGRINE」いい名前だ!和訳では「流浪」「放浪」「ハヤブサ」、その通りの性格に敬意を示そう。マシンの改良ではなくマシンに敬意をもってこちらから歩み寄ればシンクロする。タイヤやマシンにネガティブな要因は一切無く乗り手の問題だけだ。積極的に相手の理解に努めることで全ての解決が得られる。
タイトなターンはリーンアウトだ。車体を深く寝かしこみフロントタイヤには強いキャンバーを与える。ブロックが軋むほど押さえ付けても明確なフィードバックがありタイヤの意思が伝わってくる。そしてライダーの重心は後ろ、コーナリング中も上体を起こしてリヤ荷重とする。ステアリングへの入力は極力避けて後ろタイヤでセルフステアを誘発するように意識する。前後のタイヤがそれぞれの役割でいい仕事をしている。最大のパフォーマンスを発揮している状態が目に見える。正解がはっきりと分かり不正解との境界線も明確で曖昧さがない。積極関与での成果が大きく到達感、達成感で楽しめる、まるで80年代のDUCATIのよう。
自転車の年代としては90’s前期の乗り方となろう。マシンごと年代ごとに操縦方法が異なりとても興味深い。当HPのタイトルバナーに掲げた New old experience !! MTB Classics にはまだまだ奥の深さがありテーマが尽きない。
Appendix-2 221021
前出「タイヤはこのままで」を甘く訂正。他車から取り外したタイヤを試し装着したところ性能差があまりにも顕著に出て評価を修正せざるを得ない結果となった。気難しい操縦方法に歩み寄り学ぶ体験はいいことだ。過去の文化に敬意を持って接する意味では当ガレージの趣旨通りであって趣味性としてもお楽しみは大きい。しかしそれを理由にマシン評価全体を下げてはいけない。切り分けが難しいところだが今回は明らかにタイヤによる影響が理解できたので辛口評価の部分を甘く訂正することにした。
このタイヤはKLEIN Adroitから取り外したミシュランCountry dry2、どの車両に入れてもよい結果が出る信頼の逸品。年式にはミスマッチ、クロモリには見ため太すぎもあって積極的には合わせないタイプ、が性能としてはオールドMTBへの親和性がとても高く良い面を引き出してくれる迎合パーツであったのだ。
タイヤ重量は実測で680→600g、車両全体では11.0kg→10.85kgと軽減、足回りの軽量化は数値以上に体感メリットが大きい。操縦は全てに軽快で路面とタイヤの接地に無理な抵抗が無い。総合バランスが重要となるパイロンスラロームのような激しい要求も難なくこなし、どんな舵角バンク角でもクセの無い自然なハンドリングが得られた。そしてエア3キロでの試乗がとても柔軟、ショック吸収性能に高級さがありクロモリフレームとの相乗効果でさらに気持ちの良いダンピング感、ショックアブソーバーをオーリンズに変えたようなイメージだ。前出作文ではクセのハンドリングと硬さを再度検証としたが違和感は100%落着、しかも良い面が掛け算されて120%の上級車両に昇格した。
漕ぎのトラクション感が明確で車体がどんどん前へ進む、ドライブトレインへの駆動伝達がとっても繊細、肉薄のクロモリパイプに伝わる振動、共鳴にも心地よい響きがある。タイヤの取扱いに気を取られていて見えなかった部分「隠れた性能」があったのだ、ここを強くアピールしたい。積極的にハイスピードな領域へ踏み込んでいってその居心地をも感受できる。このフィーリングであればポジションを変えてもっと前傾姿勢で乗るのもいいだろう、次のチューニングテーマが見えてきた。
当時モノ同士の素敵な組み合わせは画像と単体パーツで保存出来ればそれでいい。筆者の望みは極限までチューニングを高めた状態、マシンの本質的なポテンシャルを存分に体験することだ。そこへ到達するための整備力を試すこともテーマの一つ。博物館やコレクターではない当RiGiD GARAGE、昨今オールドMTBの潮流が目立つようだが「その他大勢」とは異なる独自の趣旨を大切にして濃い活動を継続したい。
Appendix-3 230105
時間を費やしてブレーキ調整に集中しベストを探る、最終段階へ到達。湾曲したリム面のどこにシューを当てるか、答えは下側(内周側)であった。この位置では深く握りこんだときの角度変化が少なく当たり面同志が均一を保つ。ブレーキピボットの位置(高さ)も大きく関連しダイヤコンペCR-Xに装備された偏芯アジャスターに助けられた。当初は不要と思っていた余剰機能が役立ったのだ。これで十分な効き具合となり鳴きも出ず合格レベル。フロントは極まれにジャダー発生があるが使い方次第で回避できるので良しとする。車両全体のチューニングとしてほぼ完成状態に到達、安心して楽しく乗れる有機的なマシンへ昇華した。乗車ポジションがちょうど良いスポーツ感、極度な前傾ではないが漕ぎを入れたハイペースにもOK。質量感、まったり感は好感的に長所利点として味わえる。筆者が経験したモーターサイクルの中では最もモトグッチに近いと思う。どこを走っても充実感がありスロットルを捻るだけで毎度琴線に触れる。いつまでもどこまでも乗っていたくなるあのフィーリング、ロングツーリングとスポーツライディングの両方に適し、それに接している全ての時間で高い価値を提供してくれる。ドゥカティのように「ワインディングまでは我慢」のような代替要素が一切無い。
オートバイも自転車も調整「チューニング」が最も大事なテーマ、ここを無くしてRiGiD GARAGEの活動は語れない。Bianch PEREGRENEも他の所有車両同様に最高レベルでの乗車フィーリングが得られて目的のステージに辿り着いた。さあ、これからだ!たくさん乗って90’sの価値をとことん堪能しよう。
Specifications
Frame | Bianchi PEREGRINE / 1994 / 94B1529 |
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Headset | SHIMANO LX |
Bar |
KALLOY AL-003 |
Stem |
HL 120mm |
BB |
SHIMANO UN51 |
Crank |
SHIMANO LX FC-M563 |
Rings | SHIMANO 22-32-42 |
Rear Derailleur | SHIMANO XT RD-M737 |
Front Derailleur | SHIMANO LX FD-M563 |
Shift levers | SHIMANO ST-M737 |
Brake Set |
DIA COMPE 986 |
Brake levers | SHIMANO ST-M737 |
Front Hub |
SHIMANO LX HB-M563 |
Rear Hub | SHIMANO XT FH-M737 |
Rims | ARAYA RM-17 |
Tires |
TIOGA PSYCHO-U 26×1.95 |
Seat Post |
RITCHEY KALLOY 27.2 |
Saddle |
Velo VL192 |
Pedals | MKS PROMENADE |